おかえりトークセッション

2014年7月、KITTEで開催された「おかえりフェスティバル」。
そこで行われた公開トークセッションの記録です。
司会はジャーナリストの津田大介さん。
作家・女優の中江有里さんにもご参加いただき、
保護司の中澤照子さん、NPO法人セカンドチャンスで
非行少年をサポートしている高坂朝人さんのおふたりをお招きし、
更生保護の現場でのお話をくわしく伺いました。

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津田さん 先ほど、保護司をしていると苦労もあるんだけれど、次第にコミュニケーションが成立するようになって、更生の道を歩みはじめたときの気持ちは、なにものにも換えがたいとおっしゃっていましたが…。

中澤さん それは本当に、なんとも言えない喜びですね。
相手とこちらの気持ちがね、ピタッと添う瞬間があるんです。「あ、この子もうこっちに向いてる」って分かったら、そこから軌道修正するようなことを話していけばいい。相手の心の扉さえ開けば、どうにかその隙間から寄り添っていける。時間をかけて、手間ひまをかけて、少しずつね。
津田さん そんなベテランの保護司として高坂さんを客観的に見たとき、どうして彼は更生することができたと思いますか?
中澤さん 彼の更生の仕方というのは、けっして一直線じゃないんですね。
少年院に入って、出てきてまたちょっと非行して、それをくり返してという。だけど、いちばん悪いところまでは戻らない。少しずつ少しずつ悪いことと離れながら、その間に立ち直るための根をしっかりと張ってきたんじゃないかと思うんですよね。
中江さん 先ほど、お子さんができたことが更生のきっかけになったとおっしゃっていましたけれど。それは子どもを育てる責任を負うことでもありますよね。
高坂さんの中で、社会に対して自分がどうあるべきなのか、それを考えるようになったことが大きかったのでしょうか?
高坂さん そうですね。たしかに子どもが生まれるということが更生のきっかけではあったんですが、僕の親や弟の存在も大きかったと思います。僕が何回裏切っても面会に来てくれたり、手紙も出してくれて。僕が立ち直るのをずっと願ってくれていた。
だからこそ、自分が親になったとき、わが子に何ができるのかと真剣に、深く考え直すことができたのかもしれません。それから、あやまちをくり返していた11年間をふり返ってみると、家族だけじゃなくて、地域のいろんな方が関わってくれたんですね。保護司さんもいましたし、少年院の先生や家庭裁判所の調査官とか、僕に関わろうとしてくれた人がたくさんいました。
当時の僕は聞く耳を持ってなかったんですけれど、それでも、彼らからもらった見えない何かが自分の中に積もっていたからこそ、ちゃんと生きていく方向に動くことができたのかな、と思うんです。

津田さん いま、おふたりの話を伺っていて、同じことを言ってるなと感じたんですね。中澤さんが「我慢くらべ」とおっしゃった。高坂さんは、どんなひどい状況になっても関わろうとしてくれた人たちへの思いを語られた。
ふたつに共通しているのは「ずっと見守ってるよ」ということですよね。
人が立ち直っていくうえで、何か特別なことを言うのではなく、ただ立ち直ることを信じてずっとそばにいてくれる。
そういった誰かの存在がとても大切なんですね。
中江さん どちらも「待ち」の姿勢なんだな、と強く感じますね。
今の時代は、何でも早さが求められたり、合理的にものごとが進むのが良しとされがちですけれども、そうではなくて、やはり人間というのは、何かがかみ合う瞬間というか、合致する瞬間があるんですね。

津田さん 高坂さんは「セカンドチャンス!」という団体で活動しているそうですが、どんなことをされているのか少しご説明いただけますか?
高坂さん はい。「セカンドチャンス!」というのは、少年院を経験した人たちの自助グループと呼ばれる当事者団体で、自分たちの経験や希望を分かちあって、仲間としてともに成長していくことを目的としています。
少年院から出てくると、どうしても周囲の偏見もありますし、昔の悪い仲間からの誘いもある。そんな状況で孤立したり、ふたたびあやまちをくり返すことがないよう、僕のような少年院経験者が彼らの話を聞いたり相談に乗ったりしています。
津田さん モデルとなった団体がスウェーデンにあるとお聞きしましたが。
高坂さん はい。1997年にスウェーデンで設立されたKRIS(クリス)という自助組織を参考にしています。KRISも「過去に罪を犯した」という共通のバックグラウンドを持った人同士が支えあい、助けあいながら社会復帰をめざすという取り組みで、現在では世界中に5,000人を超えるメンバーがいます。
津田さん なるほど。ここで大切なのは、「セカンドチャンス!」が少年院を体験した人たちによるネットワークというところですよね。
昔の悪い仲間ではなく、ちゃんと立ち直って更生した人たちがつながることで、社会の中での再出発をめざしていくという。
高坂さん はい。僕が悪いことをしていた頃もそうでしたし、今の子たちの状況を見ていても同じなんですが、暴走族や暴力団って、自分たちの仲間が捕まると、すごく動きが早くて対応も丁寧なんですね。弁護士をつけたり、差し入れもしてくれて、きめ細やかにケアしてくれる。そして出てくるのを待っていて、場合によっては家や仕事まで用意されている。
津田さん それ自体がコミュニティになってしまっているわけですね。
高坂さん なので、そんな風に元の環境に戻ってしまってから、また一緒に悪いことしようと誘われると、やっぱり断れないんですね。それが犯罪であっても、ここまで自分のことを大切にしてくれた仲間たちなんだから、俺もやるってなってしまう。そうやって同じスパイラルが続いていく。
津田さん その悪いスパイラルを断ち切るためにも、出てきてからのケアが大切だと。
高坂さん そうなんです。よくKRISのメンバーが「塀の中から出てきてから15分が勝負だ」と言っているんですけれど。
津田さん 15分とは?
高坂さん 少年院なり刑務所なりを出て、社会に戻ってくる。その最初のタイミングが肝心だということですね。
だからKRISでは、メンバーが刑務所に入ったら、出所してくる日をかならず把握していて、その日はずっと外で待っていて、刑務所から出てきた瞬間に「おかえり」ってハグする。俺も刑務所に入ってたけど、今はこうしてちゃんと社会復帰してる。だから今日からやり直そうって。それでその日から一緒に生活したり、仕事をしたりするんです。

津田さん そうか、その最初の15分で、昔の悪い仲間と会ってしまうか、立ち直りを支えてくれる人とつながるか。そこでそれから先の道が分かれるわけですね。
中江さん 「セカンドチャンス!」にも通じていることだと思うんですが、同じ少年院経験者が支えているという点が大きいですよね。悪い仲間と元の世界に戻るのか、それとも更生して新しい世界で生きていくのか。
その分かれ道に差しかかったとき、自らの経験を分かちあって、立ち直りへの道を照らしてくれる。そんな先輩がいるというのは、心強いというか、若い子たちにとっても励みになるような気がします。
津田さん こういった取り組みが増えていって、たとえば保護司と「セカンドチャンス!」のような団体が連携したりする試みがあってもいいかもしれませんね。
中澤さんは保護司としてこういった部分のケアが手厚くなるといいなと思っているところはありますか?
中澤さん やっぱり就労支援でしょうね。
とくに10代の子なんかだと、学校に行ってなかったり、授業を受けてなかったりする場合もあるので、基本的な集団生活が身についていない。それでも少年院に行くと、共同生活を通じてある程度の社会性を学ぶこともできるんですが、少年院に入らず少年鑑別所で帰ってくる子っていうのは、そういうのがまだまだ身についていないケースがあるんです。
なので教育でも仕事でも、そういったベースとなる体験をフォローしてくれる仕組みがあるとありがたいんですけど。
中江さん そうですよね。学ぶ機会がなかったり、働いた経験がなかったりすると、結果的に自分の居場所がない。いろんなことがマイナスのスパイラルとして働いて、せっかく社会に帰ってきたのに押しつぶされてしまうということがあると思うんですね。中澤さんがおっしゃるように、教育や就労支援についてはもっと具体的なケアが必要になってくるのではないでしょうか。
中澤さん じつは、いま私が受け持っている17歳の子が法務省でアルバイトをさせてもらってるんです。
それがね、本人も親御さんもとっても嬉しいみたいなんですよ。実際に現場に入って、仕事の雰囲気にふれることができるわけですから。パソコンの練習をさせてもらったり、行事の会場の設営を手伝ったりして、いろんな形で「働く」ということを身につけていく。そうした引き受け先がもっと増えてくれるとありがたいなあ、と思っているんですけれど。
津田さん 高坂さんは介護の仕事をされているとのことですが、やはり仕事を通じて得ることって大きかったりしますか?
高坂さん はい。老人ホームで働いていたとき、僕がお世話をしたり、ちょっとお話させてもらうだけで、おじいちゃん・おばあちゃんがものすごく喜んでくれるんですよね。
僕はそれまで他人から必要とされることなんて無いと思っていたので、それがとても嬉しくて。それで、もっとこの目の前の人たちの役に立ちたいなと考えるようになって、今は通信制の大学で勉強しています。
津田さん 今の高坂さんのお話にもあるように、やっぱり仕事を通じて生まれるやりがいとか向上心ってあると思うんですよね。働くことで社会に自然と溶け込んでいくというか、社会と関わっていく意識が自発的に育っていく。
だからこそ、そういった経験を早いうちから、先ほどの「15分が勝負」じゃないですけど、出てきたらすぐ仕事に就けるという環境をつくっていくことが大切になっていくんですね。
中江さん 高坂さんは通信制の大学に在籍されているとのことですが、私もちょうど一昨年、通信制の大学を卒業したばかりなんですね。
なので、社会人になったから勉強することの大変さとか、あとは年配の方々も熱心に学んでらっしゃることに感銘を受けたりとか、共感できるところがたくさんあるんです。スタートというのは、いつでも、自分がやりたいときに切っていいんですね。
そして教育も再出発も、その機会が社会の中にあるからこそ、私たちは次への扉を開けていけるんだなと。そのありがたさを感じました。

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中澤照子さん
(保護司)
平成10年に保護司を委嘱され、以来、江東区の保護司として多くの保護観察対象者を受け持ちながら、清掃活動や小学校での読み聞かせなどの地域活動にも積極的に参加している。
津田大介さん
ジャーナリスト / メディア・アクティビスト。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。ソーシャルメディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまな形で実践している。
中江有里さん
女優・作家。1989年のデビュー以来、数多くのTVドラマ、映画に出演。『納豆ウドン』でBKラジオドラマ脚本懸賞最高賞受賞。著書に『ホンのひととき 終わらない読書』(毎日新聞社)。4月よりNHK Eテレ 高校講座『国語表現』MCを務める。
高坂朝人さん
NPO法人「セカンドチャンス!」メンバー。自身の経験を元に、ボランティアとして少年院出院者たちの支援活動を続けている。NPO法人 再非行防止サポートセンター愛知理事長。愛知県BBS連盟運営委員。
NPO法人
「セカンドチャンス!」
少年院出院者の立ち直りを支援するために設立された自助組織。過去に少年院経験があり、現在は更生して再出発している先輩たちと、少年院から出てきた少年たちが、自らの経験と希望を分かちあいながら、仲間としてともに成長していくことを目的としている。