おかえりトークセッション

2014年7月、KITTEで開催された「おかえりフェスティバル」。
そこで行われた公開トークセッションの記録です。
司会はジャーナリストの津田大介さん。
作家・女優の中江有里さんにもご参加いただき、
保護司の中澤照子さん、NPO法人セカンドチャンスで
非行少年をサポートしている高坂朝人さんのおふたりをお招きし、
更生保護の現場でのお話をくわしく伺いました。

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津田さん 更生保護について語ることって、一種のタブーというか、扱いにくい話題として捉えられている部分があるような気がします。これは冒頭の意識調査とも結びついている話だと思うんですが。
そもそも、更生保護のありかたとか、刑務所をどういう制度設計にすればいいのかというような根本的な議論って、まず日本ではされることが無いですよね。だから今日のようにこういった公共の場で、みなさんに足を止めて聞いていただくこと自体がかなり珍しいし、意義があることだとも思うんですけど。
やっぱりほとんど知られていなかったり、議論される機会が少ないことが、なんとなく話しづらい空気をつくってるのかな、とも思うんですよね。

中江さん そうですよね。高坂さんのように、自分は罪を犯したことがあるということを公にするのは勇気がいりますよね。仮に自分の身近に非行や犯罪をした人がいたとして、それもまた言いにくい。どうしても、自分にも何か影響が及ぶんじゃないかとか、どうしてもたじろいでしまうのはみなさんも同じなのではないでしょうか。
津田さん だからやはり、一度あやまちを犯した人でも、ちゃんと刑期を終えた後は、社会に戻ってきて再出発するんだという認識。これを広くみんなで共有しないと、本当の意味での解決は起きないですよね。
高坂さんは「セカンドチャンス!」やBBS会員として活動されていて、経歴のことを話しづらいな、とか偏見の目で見られたりすることってありましたか?
高坂さん 自分はいいことをしてこういった場に出ているわけではないので。
もちろん心苦しい部分もありますし、家族や身近な人たちへの影響について不安がないわけではありません。実際、僕の母に相談すると、あまり公の場には出てほしくないと言われているので。そういった部分で悩むことはありますね。
津田さん それでも、こうやってご自分の言葉で発信を続けてらっしゃる。
その原動力というのはどこにあるんでしょうか?
高坂さん 18歳のとき、逮捕されて少年審判というものを受けたんですね。
その場に家庭裁判所の調査官がいらしたんですけど、その方が審判の場で僕のために泣いてくれたんです。泣きながら「高坂君は絶対に立ち直れる人です」「私は信じています」って言ってくれて。そのときは、僕はまだ立ち直る気はなかったんですけど、後になってから僕を信じてくれた人がいたということが、すごく大きくて。
中江さん ああ、それは心に残りますね。
高坂さん はい。なので僕は、11年間ずっと非行をしてきて、今も立ち直りの支援活動をしているので、これまで500人以上の不良少年に関わってきていますが、悪い事を何回も何回もくり返すような子がいても、「絶対に人は変われる」って信じてるんです。

高坂さん テレビなんかでも、立ち直った人が出てくることはほとんどなくて、少年の重大事件だったり、成人の再犯がニュースになることが多い。
そうするとどうしても、悪いことをした人は何度もくり返すんだという見方になってしまうと思うんですよね。でも、ちゃんと立ち直って更生している人もたくさんいるんです。そういった人が出てきて「人は変われるんだ」というメッセージを伝えることも大事ですよね。僕自身、10代の頃は自分が変われるなんて思ってなかった。でも関わってくれた人たちが「大丈夫、君は変われる。きっと立ち直れる」って信じてくれた。
だから、僕もいま同じことを彼らに伝えることで、「もしかしたら自分も変わっていけるのかな」と彼らに少しでも思ってもらいたい。
中江さん 立ち直りにはマニュアルがあるのではなくて、やっぱり人との出会い、人とのコミュニケーションも含めて、そういったものこそが人を変える。
そして高坂さんがおっしゃるように、人は変われるんだということ。人に変えてもらうんじゃなくて、自分自身が変わろうと思ったときに、はじめて変われるんですね。
中澤さん そうなんですね。私たちがいくら手を差し伸べたり、背中を押そうと思っても、本人にその気が無いときは、もうなんだって動かないんですよ。だけど、その人自身が動きはじめたときに「ああ、みんなの手を煩らわせたんだな。みんながパワーをくれたんだな」っていうことに気がつくと、サッとエンジンがかかるんですね。

津田さん いろいろとお話を伺ってきて、じゃあ実際にわれわれにできることってあるんだろうか、とも思うわけなんですが。
中澤さん、高坂さん、いかがでしょう。ここにいらっしゃる一人ひとりに対して、明日からこういう風にしてもらえたら嬉しいです、みたいな具体的なことってありますか?
中澤さん まずは「声かけ」ですね。
ちょっと見知った人だったら、季節の挨拶だけじゃなくて、ちょっとオマケをつけてね。「今日は蒸し暑かったですね」とか「お子さん元気?」とか。
そういった声かけって、その地域をぐるっとまわっていきますから。近所のお兄ちゃんでもお姉ちゃんでもね、「こんにちは、がんばってそうね」なんて声をかけただけで、さっきまで下向いていたような子が「はい!」ってシャキッとしたりしますから。
声かけはね、種まきといっしょなんですね。無駄なようですけど、たくさんの種をまいておけば、いつか芽が出ることがあるかもしれない。
津田さん 立ち直りの支援も大切ですけれど、その前に非行に走らせない、ということも更生保護につながっていますよね。高坂さんはいかがですか?
高坂さん とにかく一人でも多くの人が、犯罪や非行をした人と、薄くていいので長くつながっていてもらえるとありがたいですね。
一年に一回、声をかけるだけでもいいんです。10年もすればだいたいみんな落ち着いていきますから。
そうしたら「あ、人って変わるんだ」って感じてもらえると思いますし。
津田さん そうか、たとえば学校の同級生や知り合いが、ちょっと非行して少年院に入っちゃったらしいよって聞いたら、後から連絡を取って「食事に行こうよ」と声をかける、みたいなことですよね。
そこで音信不通になっちゃうんじゃなくて、憶えていてたまに連絡を取るだけでもけっこう変わってきますよね。
高坂さん そうなんです。誰かひとりだけが更生保護のカリスマになるのではなくて、いろんな人が薄く長くつながって、普通につきあっていくことが必要なんじゃないかと思うんです。
津田さん 更生保護について、僕らもまだ知ったばかりで、これから自分にできることを考えていかなければいけない立場なんですが。
中江さんはいかがですか。今日おふたりのお話を伺って、われわれ一人ひとりができることって何だと思いましたか?

中江さん いちばん問題なのは、無関心であることだと思うんです。
更生保護について、自分とは関係のない、遠い世界の話だと割り切ってしまうと、そこで思考停止になってしまいますよね。
そうではなくて、これは私たち一人ひとりと関係しているし、社会全体の課題でもあるんだと考えること。同じ社会で暮らす中で、いろんな事情があって道を踏み外してしまった人がいる。そんな非行や犯罪をした人も、ある意味でもう一人の自分のような存在だと捉えてみる。そういった想像力が求められている気がします。
そのうえで、彼らが社会に戻ってきたときに「おかえり」と受け入れていく。一人ではできないことですけど、でも、その一人ひとりの意識が大事なんだと思うんですよね。社会に暮らす一人ひとり、そして民間と国も連携していく。そうすることで社会の受け皿ができていくのではないでしょうか。
津田さん 高坂さんもおっしゃっていたように、マスメディアの印象だけを信じるんじゃなくて、中澤さんのように直接コミュニケーションを取ったときに見えてくるもの、目の前にいる一人ひとりの笑顔だとか心の揺れを感じて「なんだ、やっぱり一人の人間なんだな」って思うところから、少しずつ社会が変わっていくのかな、なんて僕は思ったりしていました。
中江さん そうですね。これから私も肝に銘じたいなと思ったのは、人に対しておせっかいしながら気長に見守るということ。人と関わることを恐れずに、でもときに静かに見守る。この両方の気持ちを持ちながら、これからもみなさんとご一緒に「おかえり」という、この運動を支えていきたいと思います。

津田さん 更生保護について語るときも、「悪いことをした人は怖いよね」じゃなくて、「昔は悪かったけど、今は真面目にやってるよね」という風に、その変わったよね、というプラス面を話題にするだけで、世の中の意識は変わっていくんじゃないかと思うんです。われわれ自身も変わっていく必要がある。
この問題は、明日明後日に解決するようなものではないですけど、でも20年・30年という長いスパンで考えて、僕ら一人ひとりの意識が変わっていけば、かならず良い方向に向かっていのではないか。そんな希望を、今日はあらためて信じることができました。
みなさん本当にありがとうございました。

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中澤照子さん
(保護司)
平成10年に保護司を委嘱され、以来、江東区の保護司として多くの保護観察対象者を受け持ちながら、清掃活動や小学校での読み聞かせなどの地域活動にも積極的に参加している。
津田大介さん
ジャーナリスト / メディア・アクティビスト。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。ソーシャルメディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまな形で実践している。
中江有里さん
女優・作家。1989年のデビュー以来、数多くのTVドラマ、映画に出演。『納豆ウドン』でBKラジオドラマ脚本懸賞最高賞受賞。著書に『ホンのひととき 終わらない読書』(毎日新聞社)。4月よりNHK Eテレ 高校講座『国語表現』MCを務める。
高坂朝人さん
NPO法人「セカンドチャンス!」メンバー。自身の経験を元に、ボランティアとして少年院出院者たちの支援活動を続けている。NPO法人 再非行防止サポートセンター愛知理事長。愛知県BBS連盟運営委員。
NPO法人
「セカンドチャンス!」
少年院出院者の立ち直りを支援するために設立された自助組織。過去に少年院経験があり、現在は更生して再出発している先輩たちと、少年院から出てきた少年たちが、自らの経験と希望を分かちあいながら、仲間としてともに成長していくことを目的としている。