シリーズ 「更生保護」って何だろう?

「保護司」に会いにいく 第2回 うれしさが光になって、そのかたまりが支えてくれる。

  • 第1回
  • 第2回
  • 第3回
TEXT SIZE
小
大

心を通わせることの難しさ

ゆうか なかなか心を開かずに、保護観察が終わってしまうこともあるんですか?
中澤さん それは難しいときもありますよ。
全部が全部、すぐに答えが出るわけじゃないから。
ふうか うまくいかないときもある?
中澤さん ええ。
以前、どうにかして気持ちを理解したい、
心を開いてもらいたいと思って、何度も少年院に足を運んで、
時間をかけて関わった子がいたんだけど、
本当に心を通わせるのが難しかった。

事件を起こして、警察に捕まって、留置所に入れられて、
鑑別所から少年院に送られて。
まわりがぜんぶ大人で、ぜんぶ知らない人でしょ?
取り調べや手続きやら何から何まで。
だれが敵で、だれが味方かも分からなくなっちゃうから、
すっかり心を閉ざしてしまっていて。

ふうか 心を開くことがなかったんですか?
中澤さん うちに来てもずっと閉ざしっぱなし。
「大丈夫。私は味方なんだよ」って伝えても変わらない。
それでもね、保護観察が終わる頃には
「ありがとうございました。今度遊びに来ます」なんて言ってくれたんだけど、
この子は絶対遊びに来ないだろうな、というのは分かった。
それくらい心が通わせられなかった。
ふうか そんなこともあるんですね。
中澤さん 保護観察が終わったとき、
私の方も「ああ、終わった…! 終わった…!」
って心の中で何度くり返した分からない。
そのくらい背中に重く重くのしかかってた子だったの。

事件も大きかったからね。
「一生懸命働いたとしても、あなたは自分のために働いてる。
それは自分自身のためだけど、あなたのせいで命を落としてしまった人は、
もうそんな風に頑張ることもできないんだよ?」なんて投げかけてみても、
被害者のことには触れもしないで、
どのくらい働いて、いくら給料をもらいました、
こういう目標がありますって言うだけで。
ゆうか それは…難しいですね。
中澤さん どうかもう少し反省する心を持ってほしい。
贖罪の気持ちが生まれてくれれば…と願って接していたけど、
なかなかそこまではたどり着けなかったんです。

ページの先頭へ

TEXT SIZE
小
大

時間をかけて伝わっていた思い

ふうか その後はどうなったんですか?
中澤さん それがね、何年も経った頃、私が保護司として取材を受けて、
それがテレビで放送された日に、その子から電話がかかってきたの!
ふうか 本人から?
中澤さん そう、私の携帯電話に直接。
もうびっくりしちゃってね。
ということは、保護観察が終わってもう何年も経ってるのに、
その子は私の番号をそのまま残しておいてくれたってことなのよ。
「ああ、この子は私のこと消してなかったんだ!」って。
それがすごく嬉しくて。
ゆうか つながりは切れてなかったんですね。
中澤さん 保護観察が終わったら、
保護司の電話番号なんか消しちゃってもおかしくないのに、
その子は私の番号を捨ててなかった。
「中澤さん、テレビに出てますよ! いま映ってますよ!」って。
うちに来てたときよりもよっぽど元気な声で(笑)

それで、その子が「まだ保護司やってるんですか?」
なんて聞いてくるから、
「まだ続けてるのよ。役に立つかどうか分かんないんだけどね」と答えたら、
「いや、役に立ってますよ」って、しっかりと言ってくれたんです。

ゆうか ああ…よかった。
中澤さん そのときはもう本当にね、ヤッター!って気持ちですよ。
時間はかかったけど、関わったのは無駄じゃなかった。
「この子からこんな言葉をもらえるなんて…」って。

その後も「彼女ができました」とか報告してきたりね。
ほかの子もそうなんだけど、みんな恋人とか連れて来るのよ。
自慢したくてさ(笑)
ゆうか もう家族みたいな感じですね。
中澤さん 保護司をしてるとね、ときどき、
そういうちっちゃな光みたいなものが、胸の中に入ってくるの。
喜びとか、光ったものがきゅっと心の奥に詰まっていく。
それがかたまりになるんです。
うれしさのかたまりがね、この胸にあるわけ。
そしてそのかたまりが私を後ろから押してくれる。
「ああ、これでもう半歩、前に進めるな」って。

ふうか 忘れられない体験ですね。
中澤さん だからね、
保護観察所から「また受け持ってもらえませんか?」と声がかかれば、
できるだけ引き受けていこうと思ってるんです。
縁があって出会えるわけですから。
自分が元気なうちはもう何人でもって感じで(笑)
ゆうか そうやって、人が変わっていくところを見られるというのは、
保護司としてうれしいことなんでしょうね。
中澤さん そうですね。
とくに保護司は、じかに、生身のつきあいをしてるから。
大変だけど、そうやって後でオマケが返ってくることもある。
だからやっていけるってところもあるんですけどね。
たまにそんなことがあると
「世の中、まだまだ捨てたもんじゃないな」って思いますね。

ページの先頭へ

  • 1
  • 2
  • 3

保護司 中澤照子さん(保護司)

中澤照子さん(保護司)
平成10年に保護司を委嘱され、以来、江東区の保護司として多くの保護観察対象者を受け持ちながら、清掃活動や小学校での読み聞かせなどの地域活動にも積極的に参加している。

聞き手 ゆうか(BBS会員)

ゆうか(BBS会員)
大学3年生。大学のサークルでBBS会の活動に参加。学習ボランティアとして少年たちに勉強を教えたり、ともだち活動などを行っている。

聞き手 ふうか(BBS会員)

ふうか(BBS会員)
大学2年生。BBS会には1年前から所属しているが、活動への積極的な参加は今年から。現在、更生保護について勉強中。
保護司とは?
犯罪や非行をした人の立ち直りを地域で支える民間のボランティア。法務大臣から委嘱された非常勤の国家公務員とされていますが、給与は支給されません。保護観察官と協力して保護観察に当たるほか、犯罪や非行をした人が刑事施設や少年院から社会復帰を果たしたとき、スムーズに社会生活を営めるよう、住居や就業先などの環境の調整や相談を行っています。現在、全国で約4万8,000人の保護司が活動しています。
BBS会とは?
BBS(Big Brothers and Sisters Movementの略)会は、さまざまな問題を抱える少年と、兄や姉のような身近な存在として接しながら、少年が自分自身で問題を解決したり、健全に成長していくのを支援する青年ボランティア団体です。児童福祉施設における学習支援活動や児童館における子どもとのふれあい行事なども実施しています。